「そして夏休み。異様に香川に懐いているとは思っていたが、俺にも好きだと言ってくれた。普通は期待するだろう?
だがその時は槙が女に興味があると主張するし、童貞だと分かったから我慢していた」
「………」
槙は俺を真っ直ぐ見つめて目を逸らさない。
俺もさらに続ける。
「それなのに、今は香川と付き合っているくせに、好きなくせに、俺に抱き付いて来たり、俺の部屋へこうして1人で来たりする。…俺が何とも思わないと思っているのか?」
そして俺は一呼吸置き、最後に言った。
「その気もないのに期待させるな。俺は菩薩じゃない。欲がある。私情でココにはもう来るな。分かったんなら、もう帰れ“篠原”」
…とうとう言ってしまった。だが、コレで良いんだ。
俺に懐いてくれるのは嬉しい。だが、それ以上に今のこの状況がキツイ。
好きな奴が無防備に目の前に居て2人きりの部屋の中。
男なら、キス以上をしたくなるのが普通じゃないか?
だが、好きでもない奴に初めてを奪われるのは嫌だろう。だから、手遅れにならないうちに忠告したまでだ。
いつかは、槙が香川に惚れた時点でこんな日が来ると分かっていた。


