それは――――…
「あ、槙君」
そう、相手がこの人だから。花峰園先輩だから。
…この人はつい先日俺に告白まがいをしてきた人だ。だけど、何故かこの人には強く言えないんだよなぁ…
何故なら、
「槙君、ここまで会いに来てくれたの?…ありがとう。でも、もう良いよ」
この人は傷ついてる人なのに無理して自分を偽って悲しそうに笑うからだ。
「先輩、俺は…」
「きっと葉にお願されたんだろ?良いんだよ。槙君が僕の事なんかで無理する必要ないから」
そうして鈴の音色のようにきれいな声で自分をまたもや卑下しながら儚く微笑む。
その瞬間にやはり俺の胸は締め付けられる気分になる。
先輩は一人、花壇の傍で座っていた。先輩の今のこの時間は選択科目の授業だ。彼は美術を専攻しているのでスケッチブックに鉛筆を持っている。でも、紙には目の前の綺麗な花も、花壇の風景も何も書かれていなかった。


