「…勝手に食え。俺は寝るから」
そう言って律は自分のベッドに潜り込んでしまった。
…こんな事初めてだ。寮生活が始まってから律の居ない晩御飯なんて今までなかった。俺は律が用意してくれた料理を一口食べる。
だけど、
「…味しない…」
それはちっとも美味しくなかった。きっと律が手抜きしたとかじゃない。このソテーは今までに何度か食べた。調理していた時間も今までと変わらない。調味料も同じものを使ってた。
じゃあ、何が違うのだろう?
「あぁ、そっか…」
律が居ないからだ。
花峰先輩との食事でも、律が居ない分箸の進むペースが遅かった。弁当にありつくんだってたとえ毒薬入りでも俺は律の料理ならためらう事なく食べてた。姉貴のおかげで多少の毒には耐性あるし。
よくよく考えてみれば、そもそも律は俺にそんな事しないはずだ。だって今まで散々あらぬ妄想を律の傍でしてきた。だけど、毒薬入り料理は出された事ない。
つまり俺は、律が居ないと律の料理を美味しく感じる事が出来ないんだ。


