「待って」と声をかけても、その足は止まることもなくナナは去っていった。
遠のいていく彼の後姿を眺め、追いかけることも出来なかったあたしは、自分の言った言葉を振り返り、耳元にかかる髪の毛をクシャッと掴む。
「やったじゃん!!」
「おめでとう、郁!」
先輩のことを聞いてきた朝香と佐奈は、まるで自分の恋が実ったかのように喜んでくれる。
だけど、その声は大きすぎるから、あたしは素直に「ありがとう」と言えなかった。
2つの笑顔の向こうには、友達と会話をしているナナの姿。
この会話も聞かれていそうで、喜ぶどころか笑うことすらできない。



