着ている途中、知らない匂いが鼻についた。
家の匂いなのかな、それともナナの匂いなのかな。
そんなことを考えているあたしは、パーカーが意外に大きかったことにも驚いていて、改めてナナを男の子として意識した。
しばらくの間、あたしたちは静かに雨の音を聞いていた。
何も話さず、ずっと黙ったままだった。
やっとのことで到着したバスに乗りこむとき、ナナはいつものように冗談を口にする。
そして、あたしも普段どおりに呆れた顔をしていた。
だけど、心の奥で何かが変化していることを、あたしは薄々、感づいていたと思う。
「ちょっと待ってて」
家まで送ってくれたナナを門の前で待たせて、あたしは一度、家の中に入る。
「はい」と言って、自分の傘を貸そうとした。
だけど、ナナはニカッと笑いながら、手を横に振る。
「小降りだから平気だよ」
走ったらすぐだから、と言ってナナは傘を受け取らなかった。



