ナナはそんなあたしを見て、ため息をつく。
せっかくおごってもらったのに、と申し訳なくなった。
この恵比寿屋はカレーうどんのお店で、毎日20個しか作らないこのパンを、あたしは大好物だと言っている。
少し前の休憩時間でその話をしていたから、ナナはきっと、あたしが嬉しそうに食べる姿を想像していたんだと思う。
でも、今のあたしは、それどころじゃなかった。
自分の知らないところで喧嘩をしていた2人が、すごく心配なの。
「大丈夫だって」
うつむいているあたしに、そっと囁くナナ。
顔を上げると、彼は優しい表情をしていた。
「明日になれば普通に戻ってるよ。だって仲良いじゃん、お前ら。そりゃ、喧嘩くらいするでしょー」
そう言って、あたしのカレーパンに手を伸ばすナナは、いつもとは少し違って落ち着いた男の子の顔。
確かに、と妙に納得が出来た。
きっと、ちょっとしたことで揉めただけだ。
明日になれば、また3人で仲良く過ごしているに違いない。



