「森永さん、下の名前で呼んでいい?」
4月の半ば、席替えで前後になったナナに、突然、話しかけられた。
クラスメートだ、と言ってもそれまでは全く接点もなかったし、ましてや相手は男の子。
名前は知ってるけど、話したこともない男の子に笑いかけられて、あたしは完全に戸惑っていた。
断る理由もなかったし、うんと返事はしたんだけど。
「郁美・・・呼び捨ては駄目だよね。じゃあ、郁ちゃん。・・・郁って呼ぼうかな!」
独り言のようにブツブツ呟いて、彼は勝手に呼び方を決めていく。
結局は呼び捨てかよ、って突っ込みそうになったけど、そんなことよりも、あたしは下の名前を覚えられていることに驚いてしまったんだ。
「じゃあ、郁! 俺と付き合ってよ!」
その時は驚きの連続だった。
いきなり話しかけてきたと思ったら、今度は告白。
からかわれてるのかな、って不快に思うほど、ありえない展開だった。



