今にも剣を抜きそうな兄を強い眼差しで抑え、アイリーンは檻に向き直った。

「ヒースさん、ダリウスさん。私、お二人が無罪になるように、港に着いたら嘆願を行います」

力強い声だったが、アイリーンの表情は切ない。

「多くの人に呼びかけて、助けてもらえるように頑張りますから…!だから…!」


――死なないで下さい


打って変わって消え入りそうな言葉が囁かれた。

しかし、ちゃんと聞き取った二人はそれぞれ口角を上げ微笑んだ。


「死んでたまるかよ。俺様をナメんな」

「船長に同意だ。簡単にはくたばらないさ」


彼らが言うと急に心強くなるから不思議だ。

安心した表情でアイリーンも笑顔を返した時――。


「アイリーン、そろそろ戻りましょう」

イライラした様子で腕組みをするヴィンセントに呼ばれた。

「はい…」

素直に立ち上がるアイリーンだったが…。

「待てっ、アイリーン!」

ヒースコートの声にもう一度檻へ向き直る。

「嘆願をするならランバートを頼れ」

「ランバートさん、ですか?」

「ああ。多分あいつらもガルニカに行くだろうから、合流して作戦を立てるんだ。いいな」

「わかりました」


ヒースコートからのアドバイスをしっかりと胸に刻み、今度こそアイリーンは船底を後にした。





そして数日後、船はセルディスタの港町、海軍のお膝元ガルニカに到着したのだった。