一度電話を切るとお母さんはまた別のところに電話をかけ始めました。
「タクシー1台お願いします。」

お母さんは電話を切って
「2人共出かけるわよ。準備して。」
と言いました。
こう告げたお母さんの表情は感情と言う物がないかのようでした。


タクシーに乗りこむと
「総合病院まで」
とお母さんが運転手さんに言いました。

私と弟は顔を見合せました。


病…院……?

病院と聞かされては私達は迂闊に話す事が出来ませんでした。

沈黙と言う思い空気の中その沈黙も破ったのは弟でした。

「ねぇ、なんで病院なの?何があったの?」

その問いかけにお母さんは泣きそうな目で私と弟を見て下を向いてしまいました。

この時まだ16歳の私は本能的に
あぁ…触れちゃいけない事なんだ…
と察しました。


10分ぐらい車を走らせ病院に着くとお母さんは案内所みたいなところに行きました。
何か説明を受けたらしく私達のところへ戻ってくると

「こっちよ。」
と言い歩き出しました。

少し歩きたどり着いたのは薄暗い感じの場所。
扉の上には『霊安室』と書かれていました。


霊安室…遺体を保管するところ。


なんで霊安室…?


「あなた達良く聞いて?」
ずっと黙っていたお母さんがやっと口を開きました。

お兄ちゃんとお父さん…死んじゃったんだね。
お母さん。
いいよ無理しなくて。
私わかったから。