秋の空に冬の気配を感じると、観光客はパタリと姿を消す…

そんな高原にある『空の名前』という喫茶店に、それは訪れた。


店の主人は全ての準備を終え、新聞を開いてカウンター席に腰かけていた。

主人がこの店で働くようになってから、もう5年になる…おじ夫婦にこの店を任されたのは、つい最近の事だ。

″カラン、カラン″

静かな音を破るように店の扉が開き、ドアベルの音が鳴り響いた。

「まだ、開店前なんですよー」

主人がゆっくりふり返ると、そこに一人の青年が立っていた。

「…千歳…?久しぶりー」

青年はつかみ所のない、ひょうひょうとした笑顔を浮かべて、店に入って来た。

「いい店だね…」

その青年は主人の反応を冷静に見ながら、さらに言葉を続けようとした。            

「〜〜な、なるみ〜?!」

ガタンとイスから立ち上がって、千歳さつきは叫んだ。

「元気?」

見忘れる事のない笑顔で、その人物は現れた。