インビジブル

ー 朝。もう大分時間が経ち、クラスの皆が集まり始めている時間帯。

椎奈は1人、椅子に座り本を読んでいた。葉月は保健委員会があるとのことで朝から姿を見ていない。

でも、椎奈はこうゆう時間が好きでもあった。少し騒がしいが、大好きな本を読めるのでさほどこの時間だけは寂しいとは思わなかった。

どんどんページをめくり読み進めていく。昨日図書室で借りた分厚い本だが、椎奈はたいていのものなら1日で読み終わる事ができる。




「お、今日も本読んでるのか?相変わらず好きだねえ〜」



突然、椎奈の肩に手が置かれた。一瞬、ビクッと肩を震わせた椎奈だが、声で誰だか分かった。



「碧・・・・・・びっくりさせないでよ、本のページ数が分からなくなっちゃうところだったよ。」



そう言い、後ろを振り向く。

案の定、後ろには先程のことを悪びれる様子を見せず、二ッと笑っている碧だ立っていた。



「悪い、悪い・・・・・・まあ、いつものことだしな?」



ハハッ、と軽く笑い鞄を自分の机に置き、支度を始めた。


碧はいつも朝が苦手なので、椎奈達の中で1番遅くに来る。

今もまだ眠たいのか目をこすりながらあくびをしている。

椎奈もつられてあくびをする。実は、昨日の夜、寝たのが遅かったのだ。




「珍しく、椎奈も寝不足か?また、夜遅くまで本読んでたんだろ?」



「ったく、どんだけ本好きなんだよ・・・・・・」と呟きながらまたあくびをする。




「だって、何度も読み返したくなるの。碧はそうならないの?」


「う〜ん、あまり本は読まないからな・・・・・・。」




「活字とか長時間見てたら目がチカチカしてくるわ。」と子供じみたことを言っている。まあ確かに碧の性格からいって本好きとはいえないが・・・・・・


男っぽくて、運動が好きで、誰とでも仲が良くて、頼りになって・・・・・・

『たのもしい』これが碧にぴったりの言葉だった。

不器用だが面倒見がよく、確か弟がいた気がする。見たことはないが。


そんなことを考えながらまた視線を本に戻す。

碧も支度が終わったようだ。椅子に座り、机の上に手を組んでうつぶせになっていた。




「なあ、『透明人間』って漫画さ、おもしろいって思うか?」



いきなり声をかけられた。碧の方を見ると、うつぶせのままこちらを向いていた。




「そうだな〜私は面白いって思うけど・・・・・・碧も買ってるよね?碧はどうなの?」




「主人公と共感できる」という言葉を飲み込んで、素直に感想を述べた。今度は碧に問う。碧は「う〜ん」と唸ってから言った。





「まあ、買ってるけど・・・・・・何か暗くないか?話の内容がさ。あたしはもっと、ギャグ系が好きなんだがな。でも人気みたいだし、なかなか現実味があるからな。買い続けてはいる。」


「あんまり暗いのは好きじゃないもんね。」


「まあな。だって、漫画って本来笑わせてくれるもんだろ?暗いの読んでたら何か、読んでる側も暗くなんじゃん。」




そう言い、いつも通りの笑みで笑う。


確かに、碧の言う通りなのかもしれない。話の内容が暗ければ、読んでいる側の方も一緒になって暗くなってしまう。悲しい本だったら、悲しくなってきてしまう。


言い方が悪いかもしれないが、「本に感情を振り回されている。」と言ってもいいかもしれない。

本にはそうゆう力があるのかもしれない。椎奈はふと、そう思った。


まさか、碧の言葉からそんなことを思わされるなんて・・・・・・そんな意味を込めて、椎奈は軽く笑った。

碧は「何で、笑ってんだ?」と言いながら、首を傾げていた。




「いや、何でも無い。・・・・・・あ、ていうか何でもいきなりそんなこと聞いたの?」




ふと、思い出したように聞く。何で、いきなり透明人間のおもしろさについて聞いてきたのか。それが気になったからだ。

碧は言葉に詰まったようで、あー、うー、と唸りながら言葉を探しているようだった。




「ねえ、なんd・・・・「赤田さん!部活の先輩が呼んでるよ?」・・・・・・え、何だろう!何か私、やっちゃったのかな?!ごめん、ちょっと行って来るね!!」




そう言って立ち上がり、教室のドアの方で待っている先輩達の方に駆けていってしまった。


碧は「ナイスタイミング」とでも言いたげにホッとため息をついた。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・だって、弟に『買ってる人の感想を聞いて来い』って頼まれたから、何て言えねえよ。」





この呟きは教室が騒がしかったためか、誰の耳にも届きはしなかった。ー