インビジブル

ー 「じゃあ、椎奈またねー!」

「じゃあな〜。」

「うん、又明日学校でね!」





椎奈は帰り道、碧と葉月と別れて電車に乗った。「ハア、何とか今日を乗り越えた」そんな意味を込めてため息をつく。

椎奈は暫くの間、電車の窓から暗くなった風景を見ていたが、ふと何かを思い出したように鞄をあさり始めた。

そして取り出したのは、1冊の漫画。ペラペラとページをめくり、ある1ページにきた所で手を止めた。




『自分が自分ではない気がしてきた』




この漫画の主人公である如月 優が自分の部屋で泣いているシーン。

優と同じ「悲しい」、「つらい」、「1人にしないで」という感情で悩まされている椎奈は、この主人公と自分を照らし合わせていた。





誰にもこのことは言えなくて。ー分かるよ、自分だけのわがままを言ってもしょうがないから。

自分でもこの感情に気づきたくなくて。ーこんな自分、ただ腹立だしいだけ。

それでも誰かに気づいてほしくて。ーやっぱり、1人はとてつもなく寂しいから。

時たま本当に死にたくなって。ーでも、こんなことで死ぬ勇気もなくて。




本当に弱い、何て弱い生き物なのだろう。本当に面倒、何て面倒な生き物なのだろう。人間は・・・・・・

こんな感情はできれば一生持ちたくなかった、感じたくなかった。



そして、こんな醜い感情は自分の内だけにとどまればいいのにそれはできなかった。

親友のはずの友達にまで嫌な感情が生まれてきた。



葉月は、高校1年生の時にいじめを受けていた。とてもつらくて悲しくて・・・・・・いつも椎奈の所に相談に来ていた。

いじめを受けた過去があるから、1人になるのが嫌いになったのかもしれない。現に、1人でいる所を見た事がない。

椎奈は葉月が1人にならないように、寂しい想いをさせないように、いつも葉月の側についてあげていた。



「葉月は1人じゃないよ、私が側にいるからね。」



少し恥ずかしい言葉だったが、ありのままの気持ちを葉月に伝えたこともある。葉月の笑顔が消えないように・・・・・・


でも、その葉月が自分から今離れていこうとしている。多分、向こうはそうは思ってないだろう。ただ、碧と一緒にいつも通りにいるだけだ。

それでも椎奈は何とも言えない感情がこみ上げてきた。




「タスケテ、私を1人にしないで・・・・・・。」嘘つき、自分から離れていこうとしてるくせに。

「椎奈はずっと一緒にいようね!」何よ、私は今1人ぼっちだよ。

「椎奈だけなんだよ、こうゆうこと相談できるの。」ウソ、碧だっているじゃない。


私が違う人と話していると「寂しい」って目で見てくるくせに。「ヤダ!」って言ってくるくせに・・・・・・私のこの気持ちに気づいたことあるの?1人になる怖さは葉月が1番分かってると思ってたのに。

ドス黒くて汚い感情、いや八つ当たりが心の中で毎日呟かれている。

周りから見ればただの激しい被害妄想。「くだらない」、「おかしい」と昔の椎奈だったらそう思ったかもしれない。

椎奈はどちらかというと、いつも頼られる側だし、寂しいと思ったことはなかったから。「私は大丈夫・・・・・・」と思ってた。


しかし、いざこのような孤独な立場に置かされるとそんな強い自分はいなかった。

学校に行きたくなくなった。2人に会うのが嫌になった。

「たかが、そんなことでこんなに悩んで馬鹿じゃないの?」自分でもそう思う。そんなこと自分の方がよく分かっている。

でも、それが親友だからこそこんなつらい思いをしている。


『親友』だから・・・・・・シンユウ?


親友ってどうゆう時に言うんだっけ?使うんだっけ?そんなことでさえ、今の椎奈は分からなくなっていた。




椎奈は漫画を閉じ、もう1度ため息をついた。こんな自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる。

自分が感じたこともない感情を感じるとこんなにも孤独を感じるのか・・・・・・何故、悪い意味で新しい感情を知ってしまったのだろう。



きっと漫画の主人公の優も孤独を感じているのだろう。

椎奈と優。住んでいる世界も全然違うし、相手は2次元の世界だ。だけど、似た者同士。


まるで「透明人間」のようになってしまったかのよう。誰にもこの感情を知られず、ひっそりと生きている。いや、いっそのこと本物の透明人間になってしまった方が楽になれるのだろうか・・・・・・



『インビジブル』=透明人間。


私は透明人間になりたい。ー