「お前はわかってくれると思ったんだ。だから連れてきた」

 野中慎は得意そうにドヤ顔でそう言った。

「落ち着くね」

 こずえはゆっくり目を開け、野中慎の顔を見た。

 初めてまともに顔を見たこずえは、野中慎がなかなかのイケメンだと思った。

「まずは紅茶と焼き菓子。この組み合わせが最高なんだ」

 そう言って二人分のフィナンシェとアールグレイを注文した。

「それ何?」

 野中慎はこずえが持っていた箱を指差して聞いた。

「あ、ここじゃ、ちょっと……」

 こずえは照れくさそうに箱を隠そうとした時、野中慎がサッと奪い取った。

「あっ!ちょっと!」

 こずえが取り返す間もなく箱を開けた野中慎は、満面の笑顔でシュークリームを手に取り、口に入れようとした。

「お待たせしました」と、マスターであるおばあさんが注文のものを持って立っていた。

「すいません、お店の中で」

 こずえはまた小さくなってマスターに謝った。

「いい匂いね。シュークリーム? 手作り?」と聞いてきた。

「はい、でも、あの、ごめんなさい」

 こずえはひたすらに謝り続けた。

「いいのよ。お菓子が好きな方は大歓迎よ。よかったら私にもいただけるとうれしいわ」

 マスターはにっこり笑ってこずえ言った。

「はい。マスター、どうぞ」と野中慎がマスターにひとつ渡した。

「あっ! でも、美味しくないかも……」

「大丈夫。こいつのケーキうまかったからこれもうまいよ、きっと」

 野中慎はこずえのことなどお構いなしにそう言った。

「ありがとう。いただきますね」

 マスターはそう言うとゆっくりとカウンターの方へ行ってしまった。

「なんで先輩そんなことしたんですか!」

 こずえは怒ってシュークリームをほおばる野中慎に言った。

「うまいよ、これ」と満面の笑顔で言うだけで、気にもしていなかった。

「大丈夫。ここの常連だし、俺」とまで言うので、こずえは大きなため息をひとつした。