「お、兄ちゃん…?」
「いや、無理ならそれでいいんだ。でも無理じゃなければ、…もし考え直そうって思っていたなら、俺の話を聞いてくれないか?」
お兄ちゃんは本当に申し訳なさそうで、距離が離れていてもその姿が頭に浮かんだわたしは、『一応聞かせて』と返事をしていた。
「ありがとうな、蓬!」
「ううん。で、話って?」
するとお兄ちゃんは慌てて喋り出した。
「あ、ああ!そのな?蓬は知ってるだろ?…えーっと、俺の母校。高崎(たかさき)高校のこと」
「うん、」
その名前を聞いた瞬間、わたしは何だか嫌な感じがした。
だって高崎高校っていったら、お兄ちゃんのようないわゆる不良が集まる名所。
わたしはお兄ちゃんが相当の不良だったけれど、だからといって他の不良たちと仲良しこよしできるような怖いもの知らずじゃない。
実際、お兄ちゃんが何度かお友達を連れてきたことがあったけど、わたしはお兄ちゃんの昔からの親友の隆仁(たかひと)さん以外知らない。
いつも自分の部屋で彼らが帰るまで息を潜めて隠れていた思い出がある。


