「もしもし、お兄ちゃん?」

「ああ。蓬(よもぎ)は元気にしてたか?」


久しぶりに大好きなお兄ちゃんの声を聞いた。


ついこの前、高校を卒業したかと思ったらもう数日後にはこんな田舎から東京へと旅立っていったお兄ちゃん。


お兄ちゃんとの会話は嬉しいはずなのに、今のわたしは正直それどころじゃないところがある。

それでもせっかく連絡をくれたお兄ちゃんを無下にあしらうことなんて、ブラコンのわたしができるわけがない。

それにわたしのような田舎者にとって"東京"という未知の世界に対する恐怖から、このまま今受話器を置いたらもうお兄ちゃんと連絡がつかなくなってしまうんじゃないか、という余計な心配さえ芽生えてくる。


そういうものだから、やはり数日後に高校受験を控えたわたしだけれど、お兄ちゃんとそれを天秤にかけたらもちろんお兄ちゃんが勝ってしまったわけだ。




「お兄ちゃん、仕事の方はどう?」

「そうだなあ。ボスはいい人だし、先輩も色々面倒みてくれっから、やっぱこっち来てよかったなと思ってるよ」

そうそう。

お兄ちゃんの口から出てくる『ボス』やらの言葉。

どうやらお兄ちゃんがあっちへ行ってからわかったことなんだけど、彼はいわゆる"そういう仕事"についているらしい。