「君ちゃん小学校に行くのは何年振り?」

今日の父は帰ってきてから一度着替えをしたらしく、上は白のポロシャツ、下はベージュのズボンに履き替えていた。

後部座席で直太とほのかに送るメールを打っていたわたしは顔を上げた。

「小学校卒業して以来、かなぁ…」

今だに父とは敬語とタメ口が入り交じる微妙な会話をしている。

窓の外を見る。
いつの間にか通学路の道を車は走っていた。

「そんなに久し振りだったらこの辺りの景色もなつかしいんじゃない?」

車の外には見覚えのある景色に見たことのない新しい家が、ポツンポツン建っていた。

「この辺は畑しかなかったんですよ」

驚いて声を上げる。

「そうなんだ。やっぱり10年経つと変わっちゃうもんだね」

父が通学路を右にハンドルを切る。きっとわたしと母が前に住んでいた家を知っていてわざと通学路を走ってくれているんだろう。

「あ、ここの家、大きなお屋敷だったのにマンションに変わってる!」

わたしが窓にかぶり付いていたら速度を落として車が進んでいく。

「大きな木が生えてたのになくなっちゃったんだ~」
「あ、新しい道ができてる!」

一人で驚き、発見し、大声で喋っていると学校に近付いてきた。

「そろそろ校舎が見えてくるんじゃないか。あ、ほら見えた!」

「え、本当ですか。どこどこ!」

テンションが上がって反対側の窓に移動すると見覚えのある白い校舎の端っこが見えた。校舎は何も変わってないようで安心した。

「校舎は変わってないみたいだね」

父が可笑しそうに声を掛ける。散々、一人で盛り上がってしまっていたから少し恥ずかしかった。

角を曲がって一本道で学校に着くところまで来た。横断歩道を渡ったらすぐ学校に着く。そこで車が止まった。

「君ちゃん。ここ一方通行だ。ここで降ろすから学校までは歩いて行ってくれる?」

父の運転する白いポルシェが去っていく。

10年前同じ道を歩いて学校に通ったように今、わたしは同じ道を同じように歩いて学校に向かった。