アパートを出ると、そこにはのどかな住宅地が広がっている。
どこからか合唱の歌が聞こえてきた。
レミオロメンの「3月9日」。
きっと近くの学校で卒業式の練習をしているんだ。
「泣かせ歌、ミエミエじゃない……」
私は急に心がザラついてきて、「3月9日」に背を向ける。
ラベンダー色のミュールが足に馴染まない。
2年前に買ったミュール。
そう言えば、あれから一度も履いてなかったっけ。
転ばないように気を付けなきゃ……。
私は杖を握る手に力を込める。
それから行き先を確かめるように、ケータイのメールを開けた。