声をかけられた女の子は振り返る。
イラついたように眉をひそめて。




「…何?って…え?」




湖季の姿を見て、女の子はひそめた眉を元に戻す。
湖季はそんな女の子に笑みを向ける。




「ごめんね?周りに座っている人に迷惑だから、どいてくれないかな?」




優しい笑みを湖季は崩さない。
女の子は顔に戸惑いの色を見せる。




「え…で、でも…」




「男はそいつだけじゃない。それに、今じゃなくてもいいよね?放課後とかにすればいい」




口調と表情はとても優しいが、その笑顔がとても怖く感じる。
表情に力みたいなものを感じさせた。
女の子もそれを感じたのか、言葉を失う。




ピンと張り詰めたような空気が教室に流れる。
誰も話そうとしない、重たい空気




そんな中、場違いと思える声が教室に響いた。




「ぁ……湖季?」




ノイズのない、この声は今も希愛の耳に残っていた。