律花は真っ直ぐ那由汰を見る。




「希愛を悲しませないで、泣かせないで。あなたがあの子のこと好きなら…傍にいて支えてあげて」




希愛を支えるのはもう律花ではない。
目の前にいる、那由汰だ。




そばにいればいるほどそれを痛感する。
離れるのは辛い。支えられないのは悲しい。
でも…希愛が笑顔になれるならそれでいい。




律花の想いを受け取った那由汰は、




「…なんであんたから離れようとするんだよ」




と律花に眉をひそめる。




律花は何も言わなかった。
何も言わず、少し悲しそうな笑みが那由汰を振り返る。




「…じゃ」




そう小さい呟きに似た声を残して、律花は音楽室を出ていった。




那由汰は不思議に思いながらも、ピアノの鍵盤に触れる。
ポーンと高い音が部屋中に響く。




那由汰は少し前の事を思い出していた。
中学生の時、出会った勝気な女の子




固く結んだ小指、約束したことを―――。