風がアトールを押しやる。
すると、直ぐにでもアトールは飛ばされていった。
「…大好きよ、アトール」
フリージアは膝をついて、両手で顔を覆って泣いた。
涙が止まらない。
しかし、後悔はない。
これでアトールが生き延びられるなら、たとえ嫌われても憎まれても構わない。
「どうか、幸せに…」
森がざわめく。
ハンターがまた森に入って来たのだ。
フリージアは涙を荒く拭い取って、羽ばたいた。
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森の端。
そこは太陽の光が照りつけ、晴れ晴れとしていた。
暗い森とは違う、外の世界。
そこに花畑の花びらが、風のせいでそこら中に散らばっている。
アトールはその花びらを鷲掴み、唇を噛んだ。
「……っ」
強く噛んだ赤い唇から、血が流れた。
目を閉じて思い出すのは、最後に見たフリージアの涙。
───どうして、泣いたの?
なんで、あんな顔するの?
「…フリージア、君は嘘つきだ」
嫌いなら、泣くはずない。
餌として殺してしまえばすむのだから。
大好きな、大好きな
僕のフリージア
君は僕のだ
アトールは黒い外套を翻して、森の中へ走っていった。
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