「アトール」
「フリージア!」
アトールは外套をバッと取って、伏せていた体を直ぐに起こす。
その顔はフリージアが帰ってきた事で柔らかくなった。
「良かった、無事で…!
フリージアに何かあったら、どうしようかと思っ…」
アトールの目に涙がたまる。
今にも泣き出しそうだ。
───こんなに泣き虫な貴方を、これから突き放さないといけないのね。
フリージアは心配で、愛おしくて仕方が無い。
しかし時間がない。
「逃げなさい、アトール」
「…え?」
「ここから遠くに、出来るだけ早く
森の端まで、早く!」
「フリージアは!?一緒に行くでしょ?」
フリージアは首を横に降った。
一緒にはいけない。
ハンターはフリージアを狙っているのだから。
「…嫌だ!フリージアが一緒じゃないと行かない」
「お願い、いう事をきいてちょうだい」
「嫌だ!」
アトールの赤い目から涙がポロポロ落ちる。
顔をしわくちゃにしてギュッと目をつむりながら泣く彼を、本当なら抱きしめて優しくしてやりたいと思う。
…だけど、駄目。
「…私、泣き虫は嫌いよ。
泣き虫の貴方とずっと一緒にいるなんて、耐えられない。
…大嫌いよ」
アトールは目を見開いた。
赤い宝石のような目が濡れてより一層輝く。
唇を強く噛んで、アトールはポロポロ落ちる涙をグッと堪えた。
「…な、泣かないよ
ねぇ…フリージア」
「駄目、貴方ともう一緒になんて嫌。
…もう顔も見たくないの
ここから出て行きなさい!」
フリージアは村とは逆の方向を指差した。
「このまま、真っ直ぐ行きなさい。
そして…もう帰って来ないで」
「…い、嫌だ…。
ずっと一緒にいるって、居ていいって約束…したじゃないか」
「……っ。
あ、あんな嘘を信じていたの?馬鹿にもほどがあるわ!
貴方なんて、ただの餌よ。
私が生きながらえる為のね、本当は一緒にいるのも苦痛で仕方が無かなかったわ!」
「う、嘘だ…だって…!」
アトールの目から涙が溢れる。
フリージアももう、泣きそうだった。
「…アトールなんて、大っ嫌いよ!」
黒い森から風が強く吹く。
アトールを森の外まで押しやる。
「…フリージア!」
「…っ」
───もう、我慢出来ない。
フリージアは大粒の涙を流した。
