キスの意味を知った日


いつの間に、こんなの貼ったんだろう。

全然気が付かなかった。


待たせているなら申し訳ない、と思いながら慌ててフロアから駆け出す。

きっと、あの人の事だから、また禁煙室で仕事でもしてるんだろうけど。




「お疲れ様です」


ガラス張りの喫煙室にノックして入る。

すると、この前と一緒で煙草を吸いながらノートPCを打ち込んでる櫻井さんが視界に入る。

すの姿を見て、やっぱりと思う。


「終わったか」

「はい。櫻井さんの資料のおかげで助かりました」

「そうか」

「ありがとうございます」


ん。とパソコンを打ちながら返事をする櫻井さん。

まだまだ仕事が溜まっているんだろう。

カタカタと信じられない速さでキーを打っている。


相変わらず仕事人間だな。

きっと集中力は私以上だ。


真っ直ぐにパソコンの画面を見つめるその横顔を見つめて、そんな事を思う。

シンと静まり返った禁煙室には、パソコンのキーを打つ音だけが響いた。


――お邪魔だな。

お先に失礼しよう。