キスの意味を知った日


「すご……」


なに、この資料。

ここに溜まっている仕事は他分野に分かれているけど、櫻井さんにもらった資料を見れば、すぐに答えが導き出せた。

これほどまでに正確で完結なものを、たったの2日で?

自分の仕事もあるのに?


悔しいけど、今の私には真似できない。

一体どんな頭してるんだ。


「あの……」

「ん?」

「本当に、ありがとうございます」


深々と頭を下げた私を見て、櫻井さんは僅かに口角を上げた。

そして、頑張れ。と一言言い残してフロアを後にした。


去っていくその背中を見て、思う。

あれが、本当の櫻井さんの姿なのかもしれない、と。


「――…よし、やるぞ!」


呆然とそのまま立ち尽くしていたが、我に返って慌てて椅子に座る。

そして、貰った資料を見て息を吐く。


本当に助かった。

今日はもしかして帰れないんじゃないかと思ってたから。

これなら終電に間に合いそうだ。


それから、一気にやる気が出てきて、食らいつくようにしてパソコンに向かった。