キスの意味を知った日



いきなり声をかけられて、椅子に座ったまま飛び跳ねる様にして驚いてしまった。

ドクドクする心臓のまま、勢いよく後ろを振り返る。

すると、そこにはコーヒー片手に壁に体を預けて立つ、櫻井さんがいた。


「お、おはようございます」

「早いな」

「あ、あの。先日はご迷惑をおかけしました」

「体調、もういいのか」

「はい。おかげさまで」

「あまり無理すると、また倒れるぞ」

「もう大丈夫です。それに、仕事が溜まってるので」


その言葉に、チラッと私の机を見て、あぁ。と納得する櫻井さん。

相変わらず朝日に負けないほど、爽やかな井出立ちだ。

その姿を横目に、さっさと仕事に取り掛かろうとした、その時。


「半分は終わってる――それ。」


そう言って、美味しそうにコーヒーを飲む彼。

クイッと顎で私のデスクに山積みになっている資料をさした。

その姿に、訝しげな顔で櫻井さんを見つめる。


終わってる?

どういう事?