キスの意味を知った日








『それでは1時間後に午後の部を始めます』


待ちわびていたアナウンスが響く。


終わった。

なんとか午前中は持ち堪えた。

ずっとメモを取っていたせいで、手が痛い。


「体調はどうだ」


資料をトントンと纏めながら、そう聞いてくる櫻井さん。

その問いに、大丈夫です。と答える。


もちろんそれは強がりで、実際はいつ倒れてもおかしくない感じ。

年を重ねるごとに風邪を引いた時のダメージがデカイ。

昔は風邪を引いても、すぐに治ったのに今は治りも遅い。


クラクラする頭を抑えて、必死に普通を装う。

そんな意地っ張りな私を横目に、櫻井さんは席を立って私を見下ろした。


「あと少しだ。頑張れ」


そして、去り際にそう言って、背中をポンっと叩いてから会場を後にした。


――…本当、お節介なんだから。