キスの意味を知った日


自分の情けなさを悔いて唇を噛み締める。

風邪のせいなのか何なのか、妙に心が弱くなる。

そんな姿を見られまいと、慌てて部屋を出ようとした時。


「明日は休んでろ」


その言葉にドアノブを持った手が止める。

そして、勢いよく振り返って真っ直ぐに櫻井さんを見つめた。


「嫌です」


私の言葉に少し驚いて目を見開いた彼。

そして、あのなぁ。といかにも面倒臭そうに言葉を落した。


「明日乗り切れば休みです。私は大丈夫ですから、出席させてください。お願いします」


説明会があるのに部屋で寝てるなんて、そんな事できない。

それに、なんだか彼にへタレだと思われたくなかった。

弱い女だと思われたくなかった。

ちっぽけなプライドだけど、それだけは譲れない。


「説明会には出ます」


もう一度そう言って、櫻井さんをじっと見つめる。

そんな私の懇親の目力が効いたのか、少し黙っていた櫻井さんが、はぁと小さく溜息をついた。

そして、諦めたように腰に手を当てて私を見つめ返した。


「しんどくなったら、すぐに言えよ」


その言葉に、内心ホッと息を吐く。

そして、彼の気が変わらない内に部屋を後にした。