キスの意味を知った日



それから櫻井さんの言う、湖を見に行ったり近くを散歩したりした。

いつもは、壁のようなビルとコンクリートに囲まれているからか、ここにいるだけで心が安らぐ。

もともと田舎育ちの私にとっては、どこか懐かしい時間の流れ方だった。


ただ、ボーっと世界が移ろいでいくのを眺める。

ゆったりとした時間の中で、彼が変わらず隣にいてくれる。

そうこうしているうちに、お昼過ぎに着いたというのに、辺りはいつの間にか真っ暗になっていた。










「すっかり暗くなっちゃいましたね」

「山の中だから、尚更かもな」


家の中に入って、暖炉に火を入れる。

春だと言っても、まだ夜は寒い。

おまけに、ここは山の近くという事もあってか更に冷える。


ユラユラ揺れる炎を、ただじっと見つめる。

こういう何もない一時が、もしかしたら一番の贅沢なのかも。

そんな事を思って、ココアを飲んでいると。


「実は、もう一つ見せたいモノがあるんだ」

「見せたいもの?」

「ちょっと外出ないか」


そう言うや否や、壁にかけてあったガウンを私の肩にかけた彼。

そして、私の手を引いて玄関まで向かった。


一体なんだろう?

外ならさっき見て回ったし、おまけに周りには何も無かったはずだけど……。

そんな事を思いつつ、櫻井さんに連れられるまま外に出た。