キスの意味を知った日

どこか不安そうに私を伺う櫻井さんを見つめて、ふっと笑う。


「例え、櫻井さんが総理大臣になっても変わりませんよ」


冗談めかして言った私の言葉に、櫻井さんはホッとしたように笑った。

その姿を見て、私も嬉しくなる。


「きっと、今まで一緒に仕事してきた人は変わりませんよ」

「――」

「櫻井さんの事、みんな信頼してますし、頼りにしてます」

「松本……」

「お父さんの考えは正しいですね。きっと、この会社はもっといい会社になります」


そう言った私の言葉に、彼は嬉しそうに笑った。

その姿を見て、胸が温かくなる。


「それに、櫻井さん、誰よりも仕事が好きでしょう?」

「――」

「櫻井さんが頑張っている姿、みんな知ってますよ」


この私が呆れてしまう程、この人は本当に仕事人間。

だけど、それはただ仕事に追われているだけじゃないと私は分かっている。

きっと、この人はこの仕事が好きで、自分から進んでその中に身を投じているのだと思う。

その事を、きっと私だけじゃなく、みんな知っている。


きっと、この会社はいい会社になる。

誰よりも部下の私達を信用してくれている彼が上に立つなら、この会社は間違いなく。


そして、例えそうなっても、この人はきっと何も変わらない。

どんな役職を与えられても、きっとこのまま変わらない。


サラブレッドでも、役職の上にあぐらをかいている人にはならない。

走るサラブレッドだ。

周りを巻き込んで走る――。


私の大好きな会社。

私の居場所。


その会社を同じように好きでいてくれる彼がいずれ社長になるのなら。

どこまでも、この会社についていこうと思った。

この人に、ついて行こうと思った。