キスの意味を知った日


なんなんだ、この展開は。

いや、待って待って。

という事は、櫻井さんは未来の社長って事?


医療機器メーカーでは、業界トップの我が社。

その社長のご子息って、超サラブレットじゃん。

超セレブじゃん。

私と育ちも環境も全て違いすぎるじゃん!

そんな事を思いながら、頭を抱えていると。


「でも、だからって何も変わらないだろう」

「え?」


そんな声がして、顔を上げる。

すると、飄々とした顔で椅子に腰かける櫻井さんがいた。


「俺が部長になろうが、社長になろうが、俺自身は何も変わらない」

「――」

「変わるつもりもない」


そう言って、いつものように確信めいた表情で、ふっと笑った櫻井さん。

その姿を聞いて、動揺していた心が落ち着いていく。


「お前は、俺が創業一族の息子だって知って、何か変わるか」


小さく言ったその言葉に、目を瞬く。

もしかしたら、彼は自分が社長の息子だと知られるのが嫌だったのかもしれない。

知られれば、少なくとも周りは今まで通りの対応では無くなる。


上の人からは持ち上げられ。

下からは、遠慮される。


自分は何も変わらない。

そう言っても、きっとどこかで一線を引かれる。

色眼鏡で見られてしまう。

きっと、それは櫻井さんにとって、とても嫌な事なんだろう。