キスの意味を知った日





この前の残業の時といい、この櫻井駆のイメージが徐々に変わりつつある。

といっても、初めて会った時のイメージが強すぎて、未だにどう接していいか分からないのだけれど。


「……ありがとうございます」

「あぁ。今日は遅くまであるから少しでも寝ておけ」


PCの画面を見たまま、素っ気無くそう言った櫻井さん。

その言葉、そのまま返してやりたい。

この人の休んでいる所を、まだ見たことがない。


というか、意外に世話焼きなんだな。

長男か?


そんな事を思いながら、手渡されたスーツが皺にならないように持つ。

本当は大丈夫です。と言って返そうかと思ったけど、心なしか寒気がした私は、彼のおせっかいのような優しさに甘える事にした。


スーツから、ふんわりと香る煙草と香水の匂い。

何故か分からないけど心が落ち着いて、目を閉じると直ぐに夢の中に落ちていった。