「悪い。起こしたか」
「いえ……大丈夫です」
視界に入ってきた櫻井さんが、小さく首を傾げてそう言う。
その言葉に、眉間に皺を入れて答える。
座り心地の悪いシートに少しイライラしつつ、体制を変えようと目を閉じたままモゾモゾする。
すると、ぱさっと何かが不意に体にかけられた。
何かと思って目を開けると、見覚えのあるスーツが体にかけられていた。
「風邪ひく」
素っ気無くそう言った後、再びパソコンを打ち始めた櫻井さん。
その姿に驚いて何も言えない。
まさか、あの櫻井さんがこんな優しさを出してくるとは思わなかった。
仕事場では、変わらず物凄くドライな櫻井さん。
よく言えば、無駄な動きがない。
悪く言えば、冷たい。
きっと自分にも他人にも厳しい人なんだと思うけど、まさか部下に対してこんな優しさを出してくるのは予想もしてなかった。
だって今のは明らか男としての優しさだ。



