キスの意味を知った日


「本当は分かってた」


私の目を見て、ポツリとそう呟いた櫻井さん。

その言葉の意味が分からず、首を傾げる。


「ずっと、分かってたんだ」

「分かってた?」

「1人でなんて、生きていけないって」


その言葉に、目を瞬く。

そんな私を見て、小さく櫻井さんは笑った。


「松本に、過去を重ねていた。自分が変えてしまった人を重ねていた」

「――」

「助けたいと、思った。どうにかして、俺の手で」


その言葉に、胸が締め付けられる。

思わず泣きそうになって、唇を噛み締めた。


「もし、俺の手で助ける事が出来たら、救われる気がした」

「……救われる?」

「過去の事も全部、許される気がした。前に進める気がした。勝手だよな」


そう言って、どこか自嘲気に櫻井さんは笑った。

きっと、恋愛で変わってしまった私と、昔の彼女を重ねていたのだろう。

私も彼女も、『恋』で変わってしまったのだから。


どこか小さく息を吐いた櫻井さんを、そっと抱きしめる。

まるで、震える子供を包むように。


「変わりたかったんですよね」

「――」

「自分を許すキッカケが欲しかったんですよね?」


きっと、そう。

どこかで櫻井さんは、変わりたかったんだ。