広い背中を見つめながら、トボトボ歩く。
所々に飾られたイルミネーションが彼を明るく照らした。
その背中に向かって、声を落とす。
「まさか、櫻井さんと一緒にクリスマスを過ごすとは思いもしなかったです」
「俺も」
そう言って、小さく笑って後ろを振り返った彼。
ふーっと白い息を吐き出している。
「社内の人が知ったら事件ですよ」
「たかがクリスマスでオーバーだろ」
「女子にとってクリスマスは特別なんですよ」
「なに? 松本もクリスマスは特別だって思ってるタイプ?」
「――私は別に、イベントとか興味ないんで」
不敵に笑った櫻井さんに、意地を張ってそう言う。
きっと、ここで私が『特別だ』と言えば、櫻井さんは誘った事を後悔しそうだと思ったから。
きっと、私を誘ったのも、私がクリスマスとかそういうイベントに興味がないと分かっていたから。
もし、クリスマスは特別だという考えを私が持っていたら、この人は間違いなく私を誘わなかっただろう。
櫻井さんは、そういう人だ。
だけど、私は今、嘘をついた。
確かに、少し前までの私なら、クリスマスなんて普通の日と何の変りもなかった。
誕生日も、バレンタインも、クリスマスも、私には関係なかった。
イベントと呼ばれる日も仕事に明け暮れて。
特に1人でいても寂しいなんて感じなかった。
でも、どうしてだろう。
今日、彼と一緒に過ごせた事が私の胸を温かくする。
特別な日を一緒に過ごせた事が、嬉しくて堪らない。



