キスの意味を知った日


なんだろうと、訝し気に眉根を寄せる。

それでも、櫻井さんは前を向いたまま、ん。と言って、その1枚の紙を私に押し付けた。

おずおずとその紙を受け取ろうとした時、ちょうど信号が赤になって櫻井さんの視線が私に向く。

そして、表情1つ変える事なく口を開いた。


「アイツ、番号変わったから連絡するなら、こっちにしてやって」


渡されたメモには、櫻井さんの字で携帯の電話番号が書かれていた。

その番号に目に落として、じっと見つめる。

その瞬間、ストンと心臓が高い所から落とされたような感覚になる。


「これって……」

「あぁ、純の」

「――」

「こっちに連絡してやって」


紙を見つめたままの私に、淡々とそう言った櫻井さん。

その言葉を聞いて、プツンと頭の中で再び糸が切れた。


「――降ります」

「は?」

「降ります」


そう言うや否や、自分のバックを持って勢いよく助手席のドアを開けた。

そんな私の姿を見て、櫻井さんは驚いたように声を上げる。


「おいっ!」

「寄る所があるので、失礼します」


そう言うと同時に、櫻井さんの言葉も聞かずにドアを力任せに閉めた。

バンっという音が聞こえる前に、私は駆けだした。