キスの意味を知った日


「あ~もう」


なんだかじっとしていられず、勢いよくベランダに出た。

大きく息を吸って、外の空気を吸い込む。


目の前に見えるのは、僅かな夜景。

空高くにそびえ立つビル群が遠くの方に見えた。

その景色を見て思い出すのは、あの日。

一緒に櫻井さんと山の上から見た、あの夜景。


「嫉妬か……」


記憶にある感情の名前は、きっとコレ。

でも、どうして嫉妬しているのか分からない。

ただ胸の奥がムカムカする。


「あ――っ、もうっ!」


イライラが爆発して、思いっきり叫ぶ。

静かな世界の中に、私の叫び声がこだまする。


歯痒い。

自分の事なのに自分が分からない。

何が答えなのか、さっぱり分からない。

このモヤモヤの解決方法が分からない。


う~う~と、犬のように唸って、ベランダにもたれ掛かる。

すると。


「近所迷惑だぞ」


突然、世界の端で聞きなれた声がした。

驚いて顔を上げて声のした方に視線を向けると、隣の部屋のベランダに見慣れた姿があった。

いつものように、煙草を咥えた櫻井さんが呆れたように溜息を吐いた。