キスの意味を知った日


「櫻井さん、普段は冷たい印象ですけど、部下の事すごい気にかけてくれてるんです! 普通の上司なら、無視する様な事も親身になってくれるんです!」

「へぇ」

「まだあります! 私が仕事で遅くまで残っている時、ずっと一緒に残ってくれたんです! 会議続きで疲れているはずなのに、残って私の仕事のアドバイスしてくれたんです! 同じ課じゃないのにですよ!」

「あーはいはい。櫻井自慢はもう十分~」

「まだあります!」

「あ~も~いい~、お腹いっぱい」


ヒートアップする日向の櫻井さん話にブレーキをかけた美咲。

その言葉を聞いて、上がっていた肩をゆっくり下す。

正直、美咲が話を打ち切ってくれてホッとした。

これ以上は、どこか聞きたくなかったから。


どうしてだろう。

胸の奥がムカムカする。


結局それから、櫻井さん話に花を咲かせる2人に適当に相槌を打って、その日の飲み会は終わった。

もう一軒行く? と誘ってきた美咲の言葉も、断ってしまった。

もう、日向から櫻井さんの話を聞きたくなかったから。







「はぁ」


真っ暗な道を1人トボトボ歩く。

思い出すのは、日向の言葉。


あの時、幸せそうに櫻井さんの話をしている日向を見て、何故あんな感情が湧き出たのか自分でもよく分からなかった。

名前のつけようのない感情に、正直戸惑った。


家に着いてからも、胸のモヤモヤは晴れる事はなく、渦のように心を蝕む。

気晴らしにソファに座ってビールを飲んでも、日向の言葉が頭の中をぐるぐると掻き乱す。

こんな時に限って、一向に酔えない。