「櫻井さん、普段は冷たい印象ですけど、部下の事すごい気にかけてくれてるんです! 普通の上司なら、無視する様な事も親身になってくれるんです!」
「へぇ」
「まだあります! 私が仕事で遅くまで残っている時、ずっと一緒に残ってくれたんです! 会議続きで疲れているはずなのに、残って私の仕事のアドバイスしてくれたんです! 同じ課じゃないのにですよ!」
「あーはいはい。櫻井自慢はもう十分~」
「まだあります!」
「あ~も~いい~、お腹いっぱい」
ヒートアップする日向の櫻井さん話にブレーキをかけた美咲。
その言葉を聞いて、上がっていた肩をゆっくり下す。
正直、美咲が話を打ち切ってくれてホッとした。
これ以上は、どこか聞きたくなかったから。
どうしてだろう。
胸の奥がムカムカする。
結局それから、櫻井さん話に花を咲かせる2人に適当に相槌を打って、その日の飲み会は終わった。
もう一軒行く? と誘ってきた美咲の言葉も、断ってしまった。
もう、日向から櫻井さんの話を聞きたくなかったから。
◇
「はぁ」
真っ暗な道を1人トボトボ歩く。
思い出すのは、日向の言葉。
あの時、幸せそうに櫻井さんの話をしている日向を見て、何故あんな感情が湧き出たのか自分でもよく分からなかった。
名前のつけようのない感情に、正直戸惑った。
家に着いてからも、胸のモヤモヤは晴れる事はなく、渦のように心を蝕む。
気晴らしにソファに座ってビールを飲んでも、日向の言葉が頭の中をぐるぐると掻き乱す。
こんな時に限って、一向に酔えない。



