キスの意味を知った日





「何か飲むか?」


そう聞かれ、僅かに口元に笑みを浮かべたまま首を横に振る。

きっと、引きつっているだろうけど、これが限界。


――あれから、櫻井さんに連れられるままホテルの自分の部屋に帰ってきた。

何故か櫻井さんも部屋の中にいるけど、どうしてこうなったかは分からない。

今もまだ頭が混乱している。


「置いておくぞ」


そう言って、机に温かいお茶を置いた櫻井さん。

何も言わない私を、じっと見つめている。

その視線から逃れるように窓の外に目を向けて、自嘲気に笑ってみせる。


「私、呪われてるんですかね」

「――」

「気づいていると思いますけど、さっきの、この前話した2人です」

「あぁ」

「二度と、会うつもりなかったんですけどね」


小さな声が部屋に響く。

膝を抱えて、煌く夜景を目に映した。

その景色を見ていると。

『お前は幸せになるな』

って、誰かに言われている様な気がしてきて可笑しくなる。


「ありがとうございます、あそこから連れ出してくれて」


思い出したようにそう言って、小さく頭を下げる。

きっと、あのままあそこにいたら私は壊れてしまっていた。

ううん、きっと狂っていた。


何も言わない櫻井さんに視線を向けて、自嘲気に笑う。

瞼の裏に刻まれた、あの子の寝顔を思い浮かべながら。


「――顔そっくりでした。参っちゃいますよね」


天使の様に寝ていた、あの子の寝顔。

大好きだった彼にそっくりだった。

ずっと眺めていた、あの寝顔に。