◇
「何か飲むか?」
そう聞かれ、僅かに口元に笑みを浮かべたまま首を横に振る。
きっと、引きつっているだろうけど、これが限界。
――あれから、櫻井さんに連れられるままホテルの自分の部屋に帰ってきた。
何故か櫻井さんも部屋の中にいるけど、どうしてこうなったかは分からない。
今もまだ頭が混乱している。
「置いておくぞ」
そう言って、机に温かいお茶を置いた櫻井さん。
何も言わない私を、じっと見つめている。
その視線から逃れるように窓の外に目を向けて、自嘲気に笑ってみせる。
「私、呪われてるんですかね」
「――」
「気づいていると思いますけど、さっきの、この前話した2人です」
「あぁ」
「二度と、会うつもりなかったんですけどね」
小さな声が部屋に響く。
膝を抱えて、煌く夜景を目に映した。
その景色を見ていると。
『お前は幸せになるな』
って、誰かに言われている様な気がしてきて可笑しくなる。
「ありがとうございます、あそこから連れ出してくれて」
思い出したようにそう言って、小さく頭を下げる。
きっと、あのままあそこにいたら私は壊れてしまっていた。
ううん、きっと狂っていた。
何も言わない櫻井さんに視線を向けて、自嘲気に笑う。
瞼の裏に刻まれた、あの子の寝顔を思い浮かべながら。
「――顔そっくりでした。参っちゃいますよね」
天使の様に寝ていた、あの子の寝顔。
大好きだった彼にそっくりだった。
ずっと眺めていた、あの寝顔に。



