キスの意味を知った日

そんな壊れた玩具のような私を見て、一度大きな瞳を細めた櫻井さん。

そして、床に膝をついて私と同じ目線の所で止まった。


「もう大丈夫だから」


パニックの私を安心させるように真っ直ぐに目を見て、優しくそう言った。

そして、おもむろに自分の着ていたスーツの上着を、パサリと私にかけてくれた。

その瞬間、まるで抱きしめられているような感覚になって、安堵感が私を包んだ。


温かい。

安心する匂い。


一気に安堵感が襲ってきて、涙が再び決壊したように流れてきた。

その震えを抑え込むように、ぎゅっと上着を握りしめる。


「いきなりっ――押し倒されて――っ」

「いい。分かってるから。言わなくていい」

「――うぅっ」

「もう大丈夫だから」


言葉はシンプルだけど、優しく私の逆立った心を撫でるようにそう言う彼。

泣き顔を見られまいと俯く私の頭を一度優しく撫でてくれた。

そして、そのままその温かい手で、流れる涙を拭ってくれた。

その優しさに、また涙が溢れた。