キスの意味を知った日

狂ったように暴れだそうとする男に、櫻井さんは勢いよく殴りかかった。

ドスっという鈍い音と、男の金切り声が事務所に響く。


「お前さえっ――お前さえいなきゃっ」


狂ったようにそう言う男に、馬乗りになった櫻井さんは、ガンっともう一発顔面にパンチを食らわせた。

それでも、ジタバタと暴れながら叫ぶ男の胸ぐらを掴んで、もう一度殴りつけた。


ヒットしたのか、ようやくピクリとも動かなくなった男。

気を失っている。


それを確認した櫻井さんは、スクッと立ち上がり、床に座り込んでいる私の方へ歩み寄ってきた。

その姿を見て、安堵なのか何なのか、震えが激しくなった。

涙が決壊したように流れだした。


「櫻……井さん――なんで……出張じゃ……。こ、この男が、犯人」


もう頭がパニックで何を言っているのか自分でも分からなかった。

それでも、伝えなければと思って声を出す。