キスの意味を知った日


一瞬、何が起こったのか分からなかった。

突然、グイッと腕を引かれたかと思ったら、次の瞬間には地面に背中から落ちていた。


見上げた先にあるのは、真っ白な天井。

そして、不気味な笑みを浮かべたまま私に馬乗りになって見下ろしている、男性。


力任せに組み敷かれた時、地面に強く頭と背中を打ったようで、世界が揺れている。

それでも、頭の中では危険信号を知らせるサイレンが鳴り響いていた。


「やっと、僕を見てくれた」


恐怖なのか、突然の事でなのか、声を無くした私を見て、心底嬉しそうな顔をして私の上に覆いかぶさる男。

ニタリと気持ち悪い笑みを浮かべて、じっと私を見つめている。


ようやく現実を理解しだした途端、体が震えだした。

そんな私を愛おしそうに見つめて、ニタリと笑う男性。

だけど、その男の姿を見て、もしかしてと脳裏に言葉が過る。


ゴクンと生唾を飲み込む。

滅茶苦茶になる思考回路の中で、必死に唇を動かした。


「――もしかして、あの嫌がらせって……」


今にも震えそうな声でそう言うと、また男は心底嬉しそうな顔で笑った。

そしてそのまま、右手で私の髪をすくい上げて、口づけをした。

そして――。


「やっと気づいてくれたんだね」