キスの意味を知った日

耳元で聞こえた声に、ゾワッと全身の毛が逆立った。

心臓が太鼓の様に鳴る。

一気に体の力が抜ける。


それでも、負けたくないと唇を噛み締めて携帯を強く握った。

怖いという感情を押し殺して、すぅーっと鼻から息を吸い込む。

そして、力の限り大声で叫んだ。


「あんた! いい加減にしなさいよ!  言いたい事あんならハッキリ言いなさいよ! この、変態っ!! 次なにかしたら警察に行くから、覚悟しときなさいよっ!」


そう言って、相手の言葉を聞かずに、ブチっと通話を切って携帯を枕に投げつけた。

怒りを通り越して、涙が出てくる。

ボスボスと枕を殴りつけて、声を殺して叫ぶ。

それでも怒りが収まらなかったので、壁をガンガンと殴りつけた。


「なんなのよ、一体! 私が何したっていうのよ! おかえりって何よ! 変態!」


枕に顔を埋めて、そう叫ぶ。

この一週間で溜まりに溜まったストレスが一気に崩壊した。

不思議と恐怖はなく、もはや怒り狂う猛獣のようだった。


ガンガンと力任せに、そこらじゅう殴りつける。

それでも思いのほか強く殴ってしまい、拳を痛めるハメになった。

もう踏んだり蹴ったりだ。