キスの意味を知った日



「もしもし、お電話変わりました松本です」

『――』


決まった言葉を落とした私だけど、受話器の向こうは無言のまま。

あれ? 聞こえてなかったのかな?


「もしもし?」

『――』

「 山本さん?」

『――ザザ――』

「もしもし?」


少し大きな声でそう言っても、返事は返ってこない。

微かに衣擦れの様な音がするだけで、声が聞こえない。

悪戯電話か?


いや、でも私の名前も課も知ってるし、そんな事ないか。

おまけに自分の名前も名乗ってるし……。

回線の問題かな?


「もしもし? 松本です。もしもーし」


不思議に思いながらも、再度受話器に向かって話しかける。

すると。


『――ハァ――ッ』


突然、微かに息の漏れる音がした。

男性、だ。


思わず体が固まった。

何?