……抜けなれない!



「すいませっ…通してっ…てっわぁ?!」



今日はとことんついていないらしい。

打ち付けたお尻がジンジン痛む。



「…だから痛いって…」



千隼くんのファンの女の子逹には敵いません。



「崎川、大丈夫?」


「ん?」


「立てる?」



そう手を差しのべてくれるこの爽やかな男の子は、相良悠希くん。
身長173㎝。A型。
サッカー部のエースでファングラブもあるとか。

あんまり話したことがない私の心配をしてくれるくらい優しいし、モテるのも納得かも。



「ありがとう」



相良くんの手を取り、立ち上がる。

相良くんとちゃんと話すのって初めてだ。



「伊吹は相変わらず、すごいな」


「ははっ千隼くんモテるからねー。仕方ないよ」


「幼なじみがあれだけモテると大変でしょ?」


「ちょっとだけね」



女の子の集団に囲まれる千隼くんを見て笑う。

相良くんは千隼くんとは正反対って感じだけど、優しさが…かな?

もちろん、こんなこと千隼くんには絶対言えないけどね!


相良くんに爽やか100%の笑顔を向けられ、私も笑顔で応える。

こんなイケメンと話してるとこファンの子に見られたら怒られちゃいそう…。



「そういえば、相良くんもB組?」


「うん。崎川もだよね?」


「B組だよ!」


「そっか、よろしくな」


「うん!こちらこそ」


「てか、崎川。教室入れなくて困ってたんでしょ?一緒に行こうよ」



ふいに腕を引かれ女の子の集団をすり抜けていく。

相良くんって、かっこいいだけじゃなくてなんか紳士的。

腕……引っ張られてる。
ちょっと恥ずかしいかも。

そんなことを思いながら教室に入る。

相良くんのおかげで無事に教室に入ることはできたけど……



「相良くんごめんねっ!助かった!」


「別にこれくらいいいよ。じゃあ、また話そう!」


「うん!」



すぐ後ろから感じる不穏のオーラ。

まさかだとは思うけど…
恐る恐る振り替える。

と、さっきまで女の子逹に囲まれていた千隼くんがいかにも不機嫌そうな顔をして、私を見下ろしている。



「ひぃ…っ」


「お前…人を化け物みたいに言うな」


「ご、ごめん…びっくりして…」



なんで機嫌悪いのーっ!?
さっきまで普通だったのに!

チラッと盗み見ると、バチッと目があう。


……これは、大変なことになった。



「こら。伊吹、崎川席つけー。HR始めんぞー」



ものすごくめんどくさそうな顔で担任のうえちんこと上田先生が入ってくる。

あ、今年もうえちんが担任なんだ…って今それどころじゃないんだった。


「あの…千」


話を聞く前に千隼くんは目を逸らし、先に席についてしまった。

無視されちゃった。
チクりと痛んだ胸に首を傾げる。
……なんだ?今の。

私も席につくとHRが始まった。


………はいいんだけど。