再び軽快に車道を走るリムジン。

私たちは無言だった。

でも、それは違和感ではない。

だってあの海の帰りはいつもこうなんだから。

特に何を話すことでもない。


「お嬢様は」


ふいに桜木がそんなことを言い出す。

何の前触れもなく、唐突に、だ。


「何よ」

「…もうそんな大きくなられたのですね」

「な、何よ突然」


懐かしむように言った彼の言葉。

どうしてだろう。

私に言ったはずの言葉なのに、違和感。

まるで私を通して誰かに言っているみたいな言葉だ。


「…何もです」


私が不思議に気味悪がっていると、桜木は申し訳なさそうに言った。

どういう意味よ。

不思議に思ってしょうがない。

その疑問を投げかけてやりたい。

――――でも言えない。

ミラー越しに見える彼の目が"聞かないでください"と言っているように感じるから。

一体貴方は私に何を隠しているの…?

心に思った疑問。

吐き出せないのは辛い。

でも、吐いてしまって彼を困らせるのはもっと辛い。

何だかんだで私は桜木のことが好きなのだ。

…もちろん人間として。


「もうすぐ学校に着きますよ。いつもの角でいいんですよね?」


そんな私のことを気に留めたのだろうか。

学校にはまだ少し遠いのに、桜木はそう言う。

聞かなくても答えなんか分かっているはずだ。

日常茶飯事のことだから。

なのに、その日。

彼は何かを誤魔化すように言う。