何分経ったのだろうか。


「お嬢様、そろそろ学校へ向かいましょうか」


桜木が私にそう言ってくる。


「えぇ、そうね」


私は別に口答えもするわけでもなく、素直にそう言う。

気づいたときには彼はもう普通の表情に戻っていた。


右手の時計に目をやる。

時間は8時30分。

完全なる大遅刻だ。

とうに一時間目は始まっている。

でも、そんなこともうどうでもいい。


リムジンに乗り込む。

その際に桜木はもう一度海に目をやった。

私は気づかないフリをしている。

多分それは桜木に見透かされているに違いない。

でも、彼は黙っていてくれる。


「もう遅刻はいいのですか?」


返ってくる答えなんて分かっているだろうに。

あえて桜木は私にそう聞いてくる。

ミラーを見ると、彼がこちらを見ていることが分かる。

ふと目が合う。


私は微笑んだ。

別に意識したわけでもない。

なんとなく、だ。

すると彼も同じように微笑んで答えてくれる。

きっと私の答えは通じたはずだ。

桜木は微笑んだその顔で前を見て、ハンドルを握る。

そして言うのだ。


「では行きましょうか」