リムジンが少し揺れる。

気づいたらいつもの角に着いていた。


「お嬢様、到着しました。いってらっしゃいませ」


丁寧に桜木は言う。

もう考えるのはやめよう。

彼は彼なりに考えていることもあるのだ。


「えぇ、行ってくるわ」


私は桜木にそう告げ、リムジンから降りる。

桜木は私に頭を下げ、リムジンに乗り込んだ。

リムジン独特の音が響く。

気づいたときには私だけが残されていた。


パチンッ

軽く頬を叩く。

これが目が覚めただろう。

桜木は家族だ。

家族のことを想うのは当然じゃない。

そう、お母様がいないから、余計に…。


いつもの角から学校までは1分もかからない。

私はゆっくり歩くことにした。


少し風が強くなる。

それに合わせて私の赤茶色の混じった腰まであるストレートの髪が揺れる。

歩くたびにセーラー服も揺れる。

それは至って不思議ではない、自然的現象。


目指す学校は公立清水高等学校。

普通の学校で普通の偏差値。

でも、そこに通う私は普通じゃない。


私は上戸家の一人娘。

上戸紗奈だ。