彼の腕が戸惑いがちに伸びてきて、指先が微かにわたしの頬に触れた。 こぼれた涙をそっと拭いてくれる。 「また……教えてくれる?」 「う?」 「俺、すぐに忘れちまうから」 わたしを見つめてそう言った加島くんは、いつもの彼だった。 静かな瞳に問われて、わたしはただコクンとうなずくことしかできない。 加島くんの指がスッと離れ、差し出した傘を持たせてくれた。 そしてそのまま渡り廊下へと引きあげていく。 取り残されたわたしは、その後ろ姿を見送りながら、どしゃぶりのグランドに立ち尽くしていたんだ。