ピアノ演奏を終えた珠代が、観客の拍手に頭を下げた。
わたしたちのテーブルに戻ってくる途中、バーカウンター内にいる三十代と見られるバーテンダーと視線を絡めて、満面の笑みを浮かべた。
バーテンダーもそれに答えるように上品に笑い返した。
バーテンダー……そのまま社交ダンスが踊れそうな中年男性。
世の酸いも甘いも知り尽くした感じが、身体から滲み出ている。
「……」
『珠代、このカクテル美味しいね』
『珠代、こんなカクテル飲んだことない』
由美子と保奈美が、ここのカクテルをやたらと褒め称えていたのを思い出した。
もう一度、珠代の方へと視線を向ける。
黒のシックなワンピースに、大きなストールを羽織った珠代。
頑張ってはいるんだけど、いつも、どこかイケてない珠代が……イケてる女に見えた。
珠代の後姿を,ずっと熱い目で追っているバーテンダー。
頬がヒクリと引き攣った。
嫌な予感……

