そうだ。 滅多に家に人を呼ばない姉が、一度だけ男の人を連れて来たことがあった。 高校生の姉。 照れた表情で私に彼を紹介した。 スラリと細い身体にブレザーを着た、陽気そうな笑顔。 姉の声がエコーをかけたように脳に響く。 『彼、康介っていうの。』 あぁ、そうだ。 その時頬を赤らめた姉の隣に居たのは、あの人だ。 今より少し幼い、津村康介その人だった。