空と月の下

たった一駅の時間なのに、こんなにも充実した心でいられるのは沙紀のおかげだということを甲斐は感じていた。


花火大会の会場がある駅を降り、甲斐と沙紀は改札口を出ると会場入口へ向かって歩き出した。


花火大会目的の人々が待ち合わせのためか、改札口付近は人が多い。
甲斐は沙紀を気遣いながらも、足を進める。


そんな中、甲斐はある人物を見つけた。




「あ…」




驚いたように口を開け、視線を向けていたのは美菜だった。
視線はそのままに、体も固まったまま動いていない。

甲斐は足を止め、美菜と視線を合わせた。


止められた足に気付いた沙紀も、甲斐の視線を追い、その理由を知った。



沈黙が流れる。



何かがあったわけじゃない。
話したくないわけでもない。

だけど、何を話したらいいのかが分からない。


甲斐は複雑な表情を浮かべていた。
その甲斐の腕を沙紀が掴む。




「私、先に会場入り口に行ってるから、甲斐、後で来てね」




耳元で囁かれた甲斐は、ふと沙紀の顔を見つめる。
笑顔を向けているが、どことなく寂しさを感じさせる瞳が甲斐に向けられている。

甲斐は複雑ながらも小さな笑顔を沙紀に向け、返事をした。




「分かった」




返事を聞いた沙紀は、振り向くことなく沙紀に会場入り口へ向かった。




「え…あ…」




沙紀の後ろ姿を見て、美菜は慌てて沙紀を呼び止めようとしている。
甲斐は、そんな美菜を止めた。




「先に会場入り口辺りで待ってるって言ってたからいいんだ」

「…え…あぁ…そうなんだ」




歯切れの悪い返事を返す美菜に、甲斐は様子がおかしいと首を傾げるが、いつもと同じ距離感と、普通に会話ができていることから、特にその原因を探ることはせずに言葉をつづけた。